1 2月14日、バレンタインデー。――それは日本中の男子共がチョコレートを貰えるか、とソワソワがピークに達する日である。 そんな日に、小さな公園のベンチに座る、眉難高校の哀れな哀れな男子生徒2人がおりました。 「なんで俺にはチョコ無いの!?」 「仕方ないじゃないですか、うちは男子校ですし」 「じゃあ、なんで下校ン時に下呂には女の子がいーっぱい集まってたのに、俺はゼロ!?おかしくね?」 あぁ、やはりそれか…と、イオこと鳴子硫黄はFXから顔を上げる。 隣で喚く同じクラスであり親友の蔵王立は、生徒会所属の下呂と仲がよろしくない。とても。 「リュウはいつもある程度のところで飽きてしまうからでしょう」 「え、どういうこと」 「女子には、リュウではない別の本命がいるんじゃないですか」 確かにリュウ自身、本命になれない自覚はある。デートはトリプルブッキングの方が好きだし、女の子からはデートの度に馬鹿な男に引っかかったと思われているのは感じる。だが、しかし! 「義理でもいいから欲しい!」 「はいはい。そろそろ冷えてきたんで、牛丼屋にでも行きますか」 「なんでだよ〜。燃えるじゃん、男のロマンじゃん、身内以外から貰えるチョコレート!」 「一銭の金にもならないので理解しかねますね。それに、幸せは歩いてこないと言いますし」 「チョコレートは歩かねぇよ!?」 わあわあ言いながら黒玉湯の近くまで来ると、階段に座る女子高生の姿があった。制服から見て、近くの女子校生らしい。こちらから見える背中は、少し寂しそうに感 じられる。 「あの人 、フラれたんでしょうか」 「バッカ、聞こえたらどうすんだよ!?」 もちろん小声で話しているが、もしも…。そう思ったとき、女の子がくるりと振り返って――― 「あれ、もしかしてリュウ?」 「…沙紀、か?」 「リュウの知り合いですか?」 泣きはらした目元の女の子に振り向きざまにキレられる!…と思っていたリュウには予想外の展開だった。 目の前にいる女の子は、自分の幼なじみであり、初恋の相手であり、小学生の頃まで片思いしていた相手だった。中学からはとんと疎遠になってっから、喋ったのって何年ぶりだっけ…。 「私、リュウの幼なじみの前川沙紀っていうの。よろしくね」 「私は鳴子硫黄です。リュウとは同じクラスで部活も一緒なんです」 「へぇー。こんな真面目そうな人がリュウと友達とは…」 「あーもう!その話は今どうでもいいだろ。つーか、なんでこんなとこに居んの?ここ通学路じゃないだろ」 一瞬キョトンとした沙紀だったが、1つの有名なチョコレート店の包みを取り出した。 「下呂くんにコレ渡しに行ったの」 「下呂!?まさかお前下呂すきなの!?」 初恋の相手を天敵に奪われるのは面白くない…。ぐぬぬ、と押し黙ったリュウ代わりにイオが口を開く。 「ちょっと待ってください。おかしくないですか?」 「なにが…」 「包みですよ。私に行ったのなら、それが今前川さんの元にあるのはおかしいです」 「おー、さすが鋭いね。実は――」 ニヤリと笑った沙紀の話をまとめるとこうだ。 彼女の友人は眉難高校の生徒会員である草津と有馬が好き ↓ 流されるままにチョコレートを買う ↓ 流されるままに適当に下呂にでも義理として渡そうかな? ↓ キャーキャー騒ぐ女子たちのもまれ、友人とはぐれる ↓ 「せっかく高いチョコ買ったし、自分で食べちゃえ!」←イマココ というわけらしい。 「なんと…。せめて本命の人に渡す方が良いのでは」 「うん、確かにそうなんだけどね。もう包装紙破っちゃった」 「なんでだよ!」 「えー、だってさ、食べたいじゃんGOD●VA」 「確かに学生じゃ、滅多に食べられないけどさあG●DIV●」 そうこう言っているうちに、沙紀は一番可愛い装飾のチョコレートを1つ口に放った。 「うん、さすがGO●IVAだわ。なんか美味しい気がする。…というわけで、残りは2人にあげる」 「いいんですか?」 「どうぞどうぞ〜。バレンタインチョコだって、男の子に食べてもらった方が嬉しいかもしれないし」 沙紀はチョコを押し付け、階段を降りようとして、くるりと振り返った。 「そうそう。私、昔からリュウのこと好きだったんだよね!」 「はあ!?ちょっ、待っ…」 彼女は爆弾を投下して、階段を颯爽と駆け降りていった。 「…チョコレート、歩いたら来ましたね」 「俺、今なに言っていいか分かんねぇ」 …つづく。 ↓宜しければ感想を… [back] top |